和田の本棚(2020. 12 №38)

 

和田の本棚

和田の書棚から「気になった一冊」をとりあげて紹介いたします。

著者:李秉喆 (イ・ビョンチョル)

発行所:講談社

1986年10月30日第1刷発行

定価:1200円(税別)

<本紹介>

三星(サムソン)グループの創設者、李秉喆氏は青春時代、早稲田大学に留学したこともある。1985年、グループ事業体が納める税金は国家税収の5.3%を占めるほどになった。しかし歴史の荒波にもまれ、「不正蓄財者」として罪人扱いを受け、財産を没収されたり、企業崩壊の危機も体験。「事業を通して社会・国家に貢献する」という「事業報国」を理念に生きた著者が自身の「事業と人生」を76歳の時に上梓した。

<気になった言葉>

◎不正蓄財問題は…百三億四百万ホワンの追徴罰科金を支払うことでけりがつきました…事業には常に厳しい状況がつきものです。こういうとき、何よりも必要とされるのは、信念に基づいた勇気です。勇気こそ活力の源と言えましょう(52P3L~)

〇企業は文字どおり「業」を「企」てる組織体なのです。ところが、世間の大半の人は「人が企業を経営する」というこの素朴な原理を忘れているように思います(70P後ろから1L~)

〇私はすでに半世紀近く、三星の経営にたずさわってきましたが、これまで、景気変動の影響によって三星がふらふらしたというような事態に一度たりとも陥っていません。これも、経営計画が「合理追求」の経営理念に基づいて決定されるからだと思っています(99P後ろから2L~)

〇私が健熙※にもっとも望むことは「人をよく使え」ということです。この継承が三星のゆるぎない、一層の発展を促す契機となり、礎となってほしいと切望しないではいられません(201P後ろから4L~

※後継者に指名した三男。今年の10月25日に逝去

…は中途略を表わします

 

[感想]

「勇気の人」というのがまず一番の感想でした。歴史に翻弄されながら幾度も危機に見舞われ、「事業を通して社会・国家に貢献する」ことを理念にしながらも、いわれなき「不正蓄財」との誹謗中傷を受けるなど、普通の人であれば、立ち上がれない。そうした荒波を受けながらも何度も立ち上がり、晩年の10年間では年平均成長率35%超という韓国最大財閥をつくりあげています。

思っていたよりずっと読みやすく感じたのは、経営の「原理原則」全うしている企業だからということが大きく、そして、韓国の財閥というと、政府と癒着して…というダーティなイメージだったのですが、書道が趣味という文化人であり、韓国の政界はもとより世界の経済界にも知人が多く、そうした人間としての力に、勇気、そして「事業報国」という正しい理念をずっと持ち続けていたこと、そして何より「人」を大事にしたことが、この稀有な企業体をつくりあげたのだなと思いました。

[和田のコメント]

1970年代から三星(サムソン)グループの成長ぶりは「ハンガンの奇跡」と呼ばれた韓国の経済復興・成長の象徴であった。

この本は1986年に出版された。当時、日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われ、特に電機メーカーは世界を席巻していた。

サムソンの創業者の李秉喆(イ・ビョンチョル)氏は松下電器(当時)の創業者、松下幸之助氏を尊敬し、ホンダの本田宗一郎氏や新日鉄の稲山嘉寛氏などと親交があったという。日本の大学で学び、日本の企業から学び、韓国経済の成長に貢献した第一人者である。

私は1986年頃からサムソングループの小売業である新世界百貨店のコンサルの仕事をしていた。その時、このグループの企業力の凄さを肌で感じ、新世界百貨店の幹部から、創業者とその後継者でグループの会長であった李健熙(イ・ゴンヒ)氏の話をよく聞いた。

イ・ゴンヒが1987年に会長になってからのサムソングループの躍進は特に凄く、今や韓国GDP(国内総生産)の30%近くを占め、時価総額もトヨタ自動車を倍以上上回る企業グループになった。

この本のタイトルの通り、創業者、李秉喆 (イ・ビョンチョル)の「市場は世界にあり」を具現化した33年である。李秉喆氏は60年以上前から世界の先進企業から学び、協業し、財閥グループ企業を創り上げた。

その根本は「社長(私)の仕事の90%は人事である」と言っているように、「人財育成こそが企業の発展である」という考え方に表れている。この本は34年前に出版された本であるが、その中身は今でも通用するものばかりである。