和田の本棚(2022.3 №53)

 

和田の本棚

和田の書棚から「気になった一冊」をとりあげて紹介いたします。

著者:松野宗純

発行所:アートデイズ

2006年5月20日第1刷発行

定価:1600円(税別)

<本紹介>

著者の松野さんは、エッソ石油副社長も勤めたビジネスの世界の成功者です。しかし、定年後はあえて厳しい修行を伴う禅宗の僧侶の道を選びます。そして日本PHP友の会の名誉会長を務められ、定年後の生き方や「般若心教」などのテーマで講演や執筆活動を精力的に行われました。

「人生の最晩年をいかに生き、いかにゴールする(死ぬ)べきなのか?!松野宗純さんの実体験にもとづいた言葉の数々は迷える人々の心に勇気と希望を与えてくれるだろう」〔『自由訳 般若心教』で話題の作家、新井満氏談〕

<気になった言葉>

〇言葉の外相だけが、いかに鄭重でやさしくあっても、こころに真実がなかったら、それは決して愛語ということはできない。愛語は人の心を動かすことができる。人と語って人を動かすことができないのは、まだその真実が足りないからである(68P2L~)

〇板橋老師は「考えても仕様がないことを考える人は愚かであり、考えても仕様がないことを考えない人は知者である」といっておられるのではなかろうか(97P後ろから2L~)

〇人生の目的はすべてのことをやり遂げることではなくて、一歩一歩の過程(プロセス)を楽しむことにある(205P後ろから2L~)

〇「自分以外の誰かを頼ることができないのだよ」…「よくととのえし おのれこそ」が、生きていく上で唯一の頼むにたる灯です(209P1L~)

◎私の結論は、日々の凡事を徹底し、それを楽しめばよいのではないかということ…毎日を「一日一生」のつもりで行動し、休息し、遊び、楽しむ。つまり今日を精いっぱい生きるだけのことです。…その日々の積み重ねが、つつがない「人生の店じまい」を約束し、それがそのまま悔いを残さぬ人間ドラマの完結、さわやかな〝ハッピーエンド〟へとつながっていくのではないでしょうか(211P6L~)

※…は中途略を表わします

[感想]

和田の主宰する講演会で何度かお話をいただいた時には得度された後ということもあり、柔和な人なつっこい態度で私たちスタッフに接してくださって、時間があれば闘病されている奥様のことを気にかけつつも「僕も勉強したいから」と和田の塾に足を運ばれた松野宗純さんのことが懐かしく思い返されます。

松野さんが講演中におっしゃっていた「日日是好日」、本著にも出てくる「一日一日の店じまい」が「人生の店じまい」につながっていくというのは和田の姿からもずっと感じさせてもらっていたことでもあります。

文中で、松野さんは「満座の中で足蹴りにされて精神的苦痛に臍をかむも、…裸になってぶつかって初めて人は心を開き、受け入れてくれる…仲間との絆も強まり、互いに大事に付き合えるようになりました」ととらわれを捨てた時のすがすがしさを語られていました。

私自身は未だ自分のつまらないプライドとか建前とか見栄とか「捨てたつもりでなお捨てきれていないもの」にふりまわされていますが、そんなものを少しずつでも削ぎ落して愛語をもって「1日1日が人生につながっていく」ことを意識しながら生きていきたいと思います。

人間は一人では生きていけない、もっというと何かの命を奪い続けて生きていける存在でもある、けれども、生きていく上で唯一の頼むにたる灯りは「よくととのえし おのれ」である、その按分のよい人が「人生の達人」たるのではないかなと和田と松野さんから感じました!

和田から毎月手渡される「一冊の本」を通じて豊かな時間をいただきました。おつきあいいただき、ありがとうございました。

 

[和田のコメント]

私と松野さんとの出会いはやり手のグローバルビジネスマンとしてならした松野さんが得度され、その生き方に興味を持ち、直接、お目にかかりに行ったことに始まる。私とは19歳も違う大先輩であったが人懐こい人で馬が合い、時々お会いするようになった。

70代半ば頃から「僕も勉強したいから和田塾に行って勉強していい?」と来られるようになり、生涯学び続け、向上心が失せることのないお手本のような人であった。

松野さんは昭和30年代の高度経済成長と共に慶大から米国の大学に留学、そしてエッソ石油に入り、副社長まで昇りつめた。今のグローバル企業の先駆けを日本人として一早く実践された方である。

松野さんは激しいビジネスマン人生の終盤、六十歳定年後をどう生きるべきか?まさに仏教でいう林住期(60~75歳)をどう生きるかを思索していた時に仏教(曹洞宗)との出会いがあり、周囲の誰もが想像しなかった仏門の世界に入る。そこからが松野さんのそれまでと全く違う第二の人生が始まったのである。

学歴も職歴も過去の栄光も全く関係ない―雲水として修行に入り寺住職にまでなった。

この本にも書かれているが「得度式の時、女房が来てくれなかったんだよ!」と寂し気に話された顔が今でも忘れられない。「俺はさぁ~、ずっと勝手な生き方をしてきたんだ!米国に行っちまうし、猛烈ビジネスマンで子育ても女房まかせ、定年退職したら二人で世界に旅行に行く夢をもっていた女房を裏切ってしまうような行為だったからね!」と私に話してくれた。

この本は一人の人間、一人のビジネスマンの生き方を教えてくれている。誰もが歳をとり、年齢的にも肉体的にも精神的にも第一線で働いていた時とは明らかに違う境地に入る(今の私がその渦中にある)。そんな生き方のヒントがある。

合掌