今月の学び(2021.1 №38)

長寿企業 ▪ 家栄える法-その⑳ 商人が求めた「商人道」とは

日本の商人道の理念を表わす言葉としては近江商人の原点にある「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」がある。

江戸時代は「士農工商」という階級制度があり、商人は最も地位が低い立場にあった。江戸中期は、江戸幕府の開幕から百年を過ぎた頃で、世の中もやや落ち着いてきた。その頃に、商人から思想家になった石田梅岩がいた。

梅岩は急速に経済が発展し、交通網(街道、廻船等)が整備され、貨幣と商品の流通が発達し、商人が台頭してきたことをみていた。

ところが、商人は「何も生産せず、悪知恵で利益をあげる賤しい存在」と見られていた。商人たちは悩んだ。

しかし梅岩は「そもそも商人は余ったものを足りないところに持っていき、互いに通用させたのが始まりである。それが商人の役割だ。また商人はきちんと勘定(計算)して一銭たりとも軽く考えてはいけない。それを積み重ねて富を成すのが商人である」とも、また「その富をもたらしてくれるご主人さまは天下の人々。天下の人々も自分たちと同じで、一銭を惜しむ心をもっている。だから相手の気持ちになって相手がお金を出すことを惜しまないように相手に喜んでもらえる(念を入れた商品)を売ることが大事である」と説いた。

つまり、石田梅岩は「商売をする人が蔑まれて見られるのは、ただ儲ければよいとか、大した商品でもないものを高く売りつける」といった商売倫理観を正したのだと思う。「商売する人の〝人間性を正す〟という意味もある」という教えであり、これが「商人道」というものであった。

つまり、今風に考えれば「お客様に満足や納得していただくための職業観であり、その中核に位置するものが『お客様のお役に立つ仕事をしたいという使命感と献身』である。これは武士道や華道や茶道と同じように、そのことを極めていくことによって、人間性や人間力を高め、間違いない商売、正しい商売をして、商売の道を極めるのが商人道である」と理解すると合点がいく。

〝道〟とは、その道を一生懸命やり、成果を出し、失敗や成功を繰り返しながら、自分を成長させることである。私は経営では、これを〝経営道〟ととらえる。

また、武道の世界では〝残心の精神〟がある。勝っても常に敗者の気持ちを想い、相手を敬う気持ちを持つ!これこそ「道の極み」である。ある剣道の大きな大会で勝った者が審判に分からぬようにガッツポーズをした。それを審判は見逃さなかった。「負け」である。剣道の道を外れているからである。

経営や商売で「儲ければ、コンプライアンスを犯したり、スレスレでも良い」とするようなことも同じだと思う。