幸せな社長のFlow days 第75回 「積極的に生きる」

今回は、一人の受講生についてお話したいと思います。コロナ前の研修がリモートになる前のことです。
ある行政の新卒採用研修で、車椅子の受講生がいることを事前に伝えられました。一番後ろの出口に近いところに彼を座らせますというとでした。
初めてのことに、どんな方かな?と思っていました。
やってきた車椅子の彼は、まっすぐにこちらに視線を向け、短く借り上げた髪、凛としていてどこか高校球児のような雰囲気でした。
質問に彼はよく手をあげていました。同期と冗談を交わし、笑顔が絶えませんでした。何にでも積極的に参加している姿を見て安堵しました。ノートをとる彼の手もあまり動かないようでした。

昼休みに教室に戻ると彼が一人でいました。彼の隣に座り話をしました。なぜ車椅子になったのかという話になりました。昨年、東京で大学生だった時、プールの監視のバイトをしていて、プールに飛び込んだ際、首の骨を折ってしまったということでした。前日に、プールの水深を下げていたことを忘れていたそうです。昨年までは、普通の学生だったのだと思うと、なんとも言えない気持ちになりました。
お母様、心配したでしょう?と訊ねました。子供を持つ母として、お母さまの気持ちを思わずにはいられませんでした。
「これからは家を改装しないといけなくなるけど、よろしくって言いました。僕でよかったですよ。まわりの友達も心配してくれるけれど、僕平気なんですよ」
と笑顔でいう彼の強さはどこからきているのだろうと思いました。
研修最終日には、打ち上げがあるけれど、車でいってみんなを送ると言っていました。

その部屋の壁に星野富弘さんの絵がかかっていました。ご存知の方も多いと思いますが、星野富弘さんは、中学の体育教師だった時、放課後のクラブ活動中の墜落事故で、手足の自由を失いました。その後、口に筆を加え詩と絵を描き始めます。
彼は、星野さんの絵を見て「一度行きたいんですよね」と呟きました。
その一瞬、彼の悲しみを感じました。
群馬にある星野富弘美術館に行ったことあるよ、と私は言い、しばらく二人で話をしました。教室に二人きり、静かな時間が流れていました。

研修の中で、何にでも積極的に参加する彼の姿は同期のみんなへも影響を及ぼしました。
研修最後に、みんなで立って一つの輪になり「ハートビート」という隣の人と手を合わせるワークがあります。
どうかなと?と思いましたがやってみることにしました。
私は何も言いませんでしたが、クラスのみんなが中腰になり、彼と同じ視線になって手を合わせていました。
感動して、研修後一人号泣しました。(笑)
誰かを思いやる気持ち、前に向かう姿勢、困難を乗り越える強さ、励まし合うこと、そんなことを彼からみんなが学んでいました。

積極的に生きるのか、留まるのか、後退するのか、いつでも私たちは自分で決めることができます。
どんな困難があっても彼のように明るく積極的に生きることを選んでいきたいと思いました。
そして、翌年お伺いすると、彼は元気に働いていました。